英国発祥のミニ・ジムカーナ“オートテスト”を導入した新プログラム<ABARTH SAFETY DRIVING CAMP>を徹底レポート!
一度でも走ったことがあるなら「そんなことないよ」と言えるけど、未体験の人にとってはどことなく敷居が高く感じられるのがサーキット走行。
<ABARTH DRIVING ACADEMY>は、最も安全な環境でクルマを走らせることができる場所という理由でサーキットを舞台に開催されているわけですが、逆にサーキットだから参加に二の足を踏んでしまうという方も少なからずおられるようです。
そんなこともあってか、もっと誰もが気軽に参加することができ、クルマでスポーツを楽しみながらドライビングのスキルを高めていける新しいプログラム、<ABARTH SAFETY DRIVING CAMP>が計画されました。来シーズンからの本格開催の可能性を探る意味も込めた第1回目が、9月27日(日)、兵庫県西宮市のオートオークション関西会場の駐車場で行われたので、見学に行ってまいりました。
休日のアクティビティ感覚で楽しめるドライビングレッスン
ヘルメットなし。グローブなし。クルマの運転免許とABARTHさえあれば、誰もがお楽しみ感覚で参加できる。しかも会場はヒョイと走っていける、そう遠くないところにある広場のようなところ。<ABARTH SAFETY DRIVING CAMP>を簡単に表現するなら、そんなふうに気軽に参加できて、けれどたっぷりとクルマを操る楽しさを満喫することができ、プロ・ドライバーのレクチャーを受けてドライビングテクニックの向上まで図れてしまうというプログラム。
ベースとなっているのは、イギリスでは古くから行われていて、各地合わせれば年間1000回ほど開催されている“オートテスト”というものすごくポピュラーな競技です。日本でもモータースポーツの裾野を広げるために、この2015年からJAFが正式に導入を開始しました。
オートテストは、いってみればミニ・ジムカーナのようなもの。パイロンを並べたコースを走ってタイムを競うところはジムカーナそのものなのですが、決定的に違うのは、オートテストではコースの中にリバースギアを使うアクション、つまり規定どおり停止し、バックして定められた場所に入れて再び停止し、そこから再び飛び出していくという行程が組み込まれていること、そしてコースがシンプルで判りやすく、最高でも50km/h以下の速度しか出ないようなコンパクトでセーフティに設計されています。さらにはミスコースがあればペナルティポイント、パイロンタッチがあればペナルティポイント、規定の場所に規定どおり停止できなければペナルティポイント。タイムとポイントの合算で勝敗が決まる、というわけです。
これが当日のコース図で、パイロンはエスケープゾーンを含めて100m四方の中に収まるほどコンパクト。そうしたところからも想像できるとおり、エンジンのパワーが大きければ速いというわけではなく、加速、ブレーキング、荷重移動、ステアリングワーク、停止、車庫入れといったひとつひとつの作業がどれだけキッチリ正確にできるか、が最も重要になってきます。元気よくアクセル全開でタイヤをきしませて派手に走るヤル気満々の若手ドライバーより、地味に見えるけどひとつひとつを丁寧にこなして正確に走る女性ドライバーの方が速かったりすることもある、下克上(?)すら見られる面白さもあります。
キーになるのは、正確さとスムーズさ。それって、実は一般公道を走るときにも最も必要とされる要素だったりしますよね?<ABARTH SAFETY DRIVING CAMP>は、単にタイムアタックをして競うことを目的にするのではなく、オートテストが持つゲームとしての面白さをABARTHと共に楽しみながら、正確でスムーズなドライビングをモノにして日頃の運転に役立てよう、というのが狙いです。そしてもう少しレベルを上げたいとなったときには、サーキットを使う<ABARTH DRIVING ACADEMY>が待っています、というわけですね。
気軽に参加できるけど、インストラクターはプロ中のプロ
第1回となった今回は、インポーターであるFCAジャパンと地元ディーラーであるアバルト神戸による共催、そしてスーパー耐久レースや全日本ラリー選手権をABARTHで戦う“mCrt”ムゼオ・チンクエチェント・レーシング・チームが運営をサポートする形で行われました。なので、当日のインストラクターも驚くほど豪華な顔ぶれでした。<全日本ラリー選手権>のチャンピオン経験もある眞貝知志選手、そして今年の<D1ストリートリーガル・ウエスト>と<レディース・リーグ>の2冠をすでに制覇しているドリフト・チャンピオンの石川紗織選手という、mCrtの二人のチャンピオン・ドライバーが、<ABARTH DRIVING ACADEMY>同様にインストラクターを担当していました。“ミニ”がつくとはいえジムカーナ。初回はサーキット専門のプロ・ドライバーよりもクルマを横に向けて走るプロ・ドライバーを、ということなのでしょう。
イベントは午前と午後にそれぞれ25台前後のABARTHが集まって行われたのですが、流れは一緒。まずは受付、そして受付で手渡されたゼッケンをクルマに貼りつけるところからスタートです。ヘルメットやグローブなどのレーシングギアは必要ありませんし、服装やクルマの装備なども自由なので、事前の準備はそれだけ。まるで買い物のついでに参加することもできちゃうような気楽さです。1台ずつ順番に走るかたちで行われるため、1台のクルマを御夫婦や友達同士、恋人同士でシェアして参加することができるのも、楽しさの幅を広げてくれますね。
そして開会式の後には、まずはコースの完熟歩行。眞貝選手と石川選手の2グループに分かれて、参加者の方が実際に走るコースを歩いてチェックと確認をし、コースを覚えます。ふたりのインストラクターは、参加者の皆さんに走行ラインの取り方、ブレーキングポイントと荷重移動の仕方、スラローム区間でのリズムの作り方などをレクチャーしていました。中には「ここは大きく回り込んだ方がいいのか、それとも直線的に入っていって鋭角に曲がった方がいいのか」などと質問される方などもいて、和気藹々な雰囲気です。<ABARTH DRIVING ACADEMY>も皆さんが想像するよりフランクな雰囲気ですが、こちらの方がインストラクターと参加者の皆さんの距離がより近い感じで、リラックスしたような空気感がいいなと思いました。
完熟歩行の後は、ふたりのインストラクターによるデモ走行です。が、とても興味深いことに、眞貝選手、石川選手ともに、いつもと違って少々緊張気味でした。「だってバックがあるじゃないですか・・・」「走っているときに横には向くけど、後ろ向きに走ったことないし」「競技中にリバースギアに入れるのはミスしたときだけでしょ」と異口同音です。チャンピオンを獲るようなプロ中のプロでも苦手項目はある、ってことですね。
そのデモ走行、ふたりのプロフェッショナルはやっぱり凄かったでした。大きく回り込むような箇所のコーナリングスピードの速さ、スラローム区間でのアクセルのON/OFFのリズミカルさとそれによる姿勢変化、ターンの前の的確な減速と荷重移動、クルリと回るときの回転半径の小ささと故意にアンダーステアを誘発させて走行ラインをつなぎながら立ち上がっていくときの加速の鋭さ。そしてフル乗車で時を除けば・・・。
彼らも参加者の皆さんと同じく初めてコースを走ったので、最初は勝手がわからず、眞貝選手は『ABARTH 595 COMPETIZIONE(コンペティツィオーネ)』のリバース・ボタンをブラインドタッチで操作しようと試みて失敗、石川選手は着座位置が低いためにバックするときに後ろ側のパイロンが見えずモタつき、とそれぞれ理由はあったのですが、彼らの「だってバックがあるじゃないですか・・・」という緊張感がそのまま現実になった形でした。彼らの名誉のために付け加えておくと、何度かデモ走行をしているうちにミスはなくなり、毎回ほぼピタリと同じタイムをマーク(=そのクルマのそのコースでの最速タイムをマーク)していました。この順応性の高さとクルマの実力を常に引き出し切れる運転技術には、本当に唸らせられます。
ともあれ、インストラクターのプロにも苦手項目があったことは、素直にそこを認めて笑いに繋げてくれたこと、そしてコースが短くあまりタイム差がつきにくいこともあって、参加者を大いに勇気づけました。続く参加者の方の走行では、プロのタイムを破ろうとする猛者も現れたり、あるいはゆっくりとひとつひとつを確認するように走る人もいたりと、それぞれが自分のペースでリラックスしながらタイムアタックを楽しんでおられたようです。走っていない人は、すぐ目の前の近い場所を加速したり減速したりターンしたりするほかの人の走りを眺めながら応援したり、といい雰囲気。インストラクターのふたりは走り方について質問されたことに的確にアドバイスをしたり、希望された人の助手席に乗り込んで隣で走らせ方のレクチャーをしたり、と大忙しです。
後で訊ねてみたら、同乗した場合にはタイムがどうというよりも、こういうポイントではこういう操作をするとクルマが適切に動いてくれるというような、日常のドライビングにすんなりと役立てることのできる具体的なアドバイスをされていたようです。これは今ひとつ自信を持てないビギナーの方にとって、かなり有効なレッスンですよね。なるほど、“SAFETY DRIVING CAMP”と名付けられた理由はとっても明確なのだ、と感じました。
来シーズンの開催に期待が高まる、気軽だけど手応えのあるプログラム
かくいうレポーターの立場でお邪魔した僕も、1本だけコースを走らせてもらいました。使うギアは1速がメインで、2速に入れるか1速のままで抜けるか迷う部分がちょっとあるといった程度の速度域の低いコースでしたが、だからといってサッと走ってパッとタイムを削れるようなコース設定ではありませんでした。速度域が低くてリスクがほとんどないというだけで、コースのところどころでちゃんとクルマの持つ物理的な限界に直面するような、突き詰めようと思うと極めて奥が深いコース作りがなされていたのです。
ひとつひとつのポイントでドライバーがするべきことはシンプルなのですが、短いコースだけにそれが立て続けに現れるため、どこかでミスをすると次のポイントでの走らせ方にまで影響を与えてしまいます。つまり加速と減速をするタイミングとそれらの度合い、それらで荷重移動をさせて作り出したクルマの姿勢をどうコーナリングやターンに活かすか、無数にある走行ラインのどこを通ればスムーズに素早く走り続けられるのか・・・といった、サーキットを高い速度で全開走行するときに求められるのと全く同じ命題が、このコンパクトで短い低速コースの中に全て詰まっているのです。逆に密度はサーキット走行よりも濃いかも知れません。これは楽しい!かなりの手応え!というか、ちょっとムキになっちゃうかも・・・。
今回は午前中の回も午後の回も、どちらもこうしたプログラムは初めてという方からサーキット走行の経験が豊富な方まで、参加者のスキルは様々でした。が、全ての方が「楽しかった」と笑顔だったのが印象的でした。それはこのオートテスト方式というプログラムが、走る人のレベルごとに楽しさと難しさを味わえるものであることの何よりの証でしょう。同時にそれは、走る人のレベルごとに上達していくための改善ポイントを理解しやすいプログラムであることの証でもあるわけです。参加者の方々も「次回の開催があるならまた参加したい」という声が多く聞こえてきましたが、それも然りだと思います。
だって、ビックリするほど気軽に参加できるわりには、ちゃんとしたクルマを使ったスポーツ&ゲームを思いきり楽しめるものであり、自分のドライビングを見つめ直したり上達させたりすることのできるものであり、しかも求めればプロ中のプロが手助けをしてくれたりするわけです。サーキットを使う<ABARTH DRIVING ACADEMY>は確かに本格的だし勉強になるけれど、こちらはこちらで全く見劣りしないプログラムだと思います。
主催陣は現在、今回の開催を通じて得たものを踏まえて、来シーズンの本格開催の計画を練り込んでいる模様です。広めの駐車場ひとつあれば場所的には開催できるコンパクトなイベントなので、各県ごとに1回ずつ開催・・・なんてことになったら素晴らしいだろうなぁ、なんて、ついつい考えてしまいますね。そのくらい、皆さんにもぜひ参加してみていただきたいプログラムだったのでした。
最後になりましたが、参加されていた方にちょっとだけお話をうかがってみました。
藤田智子さん/ABARTH 500
アバルトを買ってまだ1年経っていませんし、こういうイベントに参加するのも初めてなんです。サーキットともなると準備も必要だし遠いし、でもこれは本当に気軽に参加できそうだと感じたので、場違いかなとも思ったんですけど申し込んでみました。
走ってみたら・・・おもしろいですね! 人に見られながら走ることなんてまずないし、コースも走らせ方もよくわからなかったし、ホントにドキドキしながら走ったんですけど、下手なりに楽しめました(笑)。プロの方も含めて、皆さんの走りを間近で見られるのもおもしろかったし、プロの方のクルマに同乗させてもらって、普段はあんまり意識してないハンドルの切り方だとか加速の仕方だとかアクセルの緩め方が自分と全然違うことを知って勉強になったりとか・・・。最初から最後まで、ずっと楽しかったです。それに運転するおもしろさにちょっと目覚めたというか、もっと上手くなりたいな、と素直に思えました。今日、ちょっとは上達したかな・・・? 次回も近場で開催されるんだったらきっと参加すると思います
岡本吉雄さん/ABARTH 500C ESSEESSE
<ABARTH DRIVING ACADEMY>にもずっと参加させていただいていて、今回も石川県から走ってきました(笑)。<ABARTH DRIVING ACADEMY>でもジムカーナがあるので、曲がれない・停まれないっていうのは経験していて、初めて参加したときにクルマが思いどおりに動いてくれないおもしろさや、思いどおりに動いてくれたときの嬉しさっていうのを知ったんですけど、こういうのは本当に楽しいですね。普通の道路を走ってるだけでは絶対に味わえないです。
今回のイベントも、そういう点は一緒ですね。楽しいし、勉強になる。私は欲張りだからもっとコースの難易度が高い方がおもしろいと思うところもあったんですけど、でも何も準備とかしないでプラッと来て半日だとか1日だとかを楽しく遊んで帰れるっていうのは、気軽でいいですね。アバルトは乗っていて本当に楽しいクルマだから、休みの日の過ごし方として、とてもいいと思います。もちろん次回があるなら参加しますよ。
★眞貝選手のドライブ・テクニックを体験!
INFORMATION
★TOKYO MOTOR SHOW 2015参加
10月29日(木)〜11月8日(日)に行われる<第44回東京モーターショー2015>に、ABARTH 595 TURISMOと ABARH 695 BIPOSTOを出展。
>> https://www.abarth.jp/tokyomotorshow/
★ADRENALINE RUSH OFFER vol.3
このチャンスが、欲望をかき立てる。対象は、ABARTH全モデル。
>> https://www.abarth.jp/offer/
★ Ready for Autumn キャンペーン
専門のスタッフがABARTHの熱いカーライフをサポート。10月31日(土)まで実施中!
>> https://www.abarth.jp/readyforautumn/
★『ABARTH 695 Biposto』の詳細はこちらから
>> https://www.abarth.jp/695biposto/
嶋田智之さんによる『ABARTH 695 Biposto』レポートはこちらから
>> https://www.abarth.jp/scorpion/driving_fun_school/4862
★ <ABARTH SAFETY DRIVING CAMP>
ADAの要素を取り入れながら、英国発祥のミニ・ジムカーナ『オートテスト』の本格的な導入を目指して、新プログラムがスタート。
>> https://www.abarth.jp/safetydrivingcamp/
Text:嶋田智之
Photos:横山マサト